医学的にいうと、痛みは三種類に分けられます。
第一に、痛みを受け入れる神経末端に刺激が及んだときに感じる痛み。例えば、虫歯が歯の神経(歯髄)に達して炎症が起こり、その刺激が神経を興奮させて感じる痛みです。
次に、神経そのものが障害された時に感じる痛み。歯の神経を抜いた後、なかなかとれない痛みです。
第三に、精神的、心理的な原因で生じる痛みで、生理的、肉体的には異常がみられないのに感じる痛みです。歯科、口腔外科の領域でこの痛みに悩んでいる患者さんもいます。皆さんの中で、自分でも思い当たる方もいらっしゃるかもしれませんので、今回はその症例をお話します。
45歳の女性:舌の横腹にイライラするような、鈍い痛みを感じるため来院。診査をしても舌に異常はみられず、よくお話を聞くと、近親者に癌で亡くなった方がいて、それ以来痛みが出て来たようだとのこと。異常がないこと、癌ノイローゼの一種で、舌に癌の兆候など全くないことを説明したところ、安心感からか、涙を流し、その後顔も明るくなりました(精神的カタルシスが得られたのでしょう)。精神安定剤を服用していただき、違和感はのこっているが、あまり気にならなくなったということです。これは、舌痛症(ぜつつうしょう)の一種で、早期に治療しないと、痛みが慢性的になり、治療も困難となる場合があります。
38歳の女性:左顎から側頭部にかけての強い痛みのため来院。顎関節症、神経痛を疑って精査しましたが、異常はみられず、また親知らずを含む歯の異常もみられません。ただ、顔の表情が仮面のように硬く、そこでお話をよく聞くと、家庭内の問題で悩んでいることがあるということでした。他覚的には異常がなく、精神的ストレスが痛みの原因になっている可能性が高いことを説明すると、ご本人も感ずるところがあったようで、痛みの原因を理解されたようでした。抗うつ剤の服用で、顔の表情も明るくなり、痛みもなくなりました。
17歳の女性:左顎の痛みのため来院。顎関節、顎周囲の筋肉に痛みがあり、典型的な顎関節症でした。しかし、なにか思いつめたような、硬い顔つきなので、よくお話を聞くと、数週間前に親友が自殺したとのこと。おそらく、精神的ショックによる無意識の食いしばりが顎関節症を生じさせたものと考えられ、そのメカニズムを説明するとともに、薬物治療をおこない、症状がなくなりました。
このように、精神的なストレスが原因で、口腔に痛みが生じることがあります。
このような痛みに悩んでいる方は、できるだけ早く、口腔外科や心療歯科にかかられて、適切な治療を受けてください。
投稿日:2007年10月9日 カテゴリー:未分類